東京の魅力のひとつは都市の変貌である。これについては先に六本木ヒルズの例で書いた。六本木ヒルズ以降、六本木地区には、東大生産技術研究所の跡地に国立新美術館ができ、防衛庁跡地に六本木ミッドタウンができた。ミッドタウンの中にはサントリー美術館ができ、森ビルの森美術館とあわせて、六本木地区での美術館トライアングルができた。いずれも企画展示を売り物にしている。美術館といえば、上野恩賜公園であったが、最近は六本木から目が離せない。
六本木の国立新美術館でルノアール展が開催された。日本人には、ミレー、マネ・モネ、ゴッホと、ルノアールは根強い人気がある。だいたい7年に一度くらいのペースで日本に来ている。それが毎回盛況なのである。地方の美術展では客が来なくて赤字経営のところもあると聞くのに、東京の美術館は、ウィークデイも人でいっぱいである。
見に来ていた女性に聞いてみた。「女性の裸体画がそんなによいのか」と。ルノアールはエロスの画家とも言われているが、彼女たちは、別になんとも思わないようである。明治のころ黒田清輝の裸体が騒がれたのを思い出し、隔世の感があると思った。そもそもエロスと性的なことは、似ているが微妙に違う。彼女たちはその辺はよく心得ている。もともと庶民は原始の時代からおおらかだったのであるが、官というか、お上が庶民統治上騒いでいただけなのかもしれない。
画家が美を求めて創作意欲を掻き立てられるとすれば、女体はその原点である。男性の裸体は気持ちが悪いだけなのか、それほど一般的ではない。コカコーラの瓶のフォルムも自動車の車体のカーブも、いずれも女体の曲線美が採用されている。
小生もルノアールの裸体画のフォルムを真似してノートに描いてみる。画家はさらにフォルムからフィギァにまで消化し表現する。小生は加山又造の研ぎ澄まされた曲線美に身震いする。しかし、ルノアールはフォルムのみならず、色彩やマティエールにもこだわった。女性の肌の表現を追求するのである。その執念がすごい。
絵の具の色彩について簡単に記す。小学生のころは影の部分は暗くなるので、絵の具に黒を混ぜた。印象派以降は絵の具に白や黒は混ぜない。色彩が濁り汚くなるからだ。点描画は色を混ぜないための技法である。
油絵は15世紀の画家ファン・エイク兄弟が発見した艶油(リンシード油とワルナット)のおかげで、生き生きした艶のある絵が実現したといわれる。その後ルノアールはさらに、若き女の肌をくすぶらせず、透明感とつややかさを表現すべく、工夫を重ねた。近代画の中で絵の具の透明性を高度に生かしきった画家として、ルノアールが上げられる。晩年のルノアールは単に物質を如実に表現するのみならず、色に響きや香りを与え、「色の悦び」を表現したといわれる。晩年の裸婦図は、裸体というより人間の血を画いたといわれるほど赤色ガランスをふんだんに駆使したようである。また、顔料や染料、溶き油、土台、塗り重ね法など工夫に工夫を重ねたといわれている。死ぬまで努力を惜しまぬ画家の執念を改めて感じさせる。
画家の奥深さを感じるには、画集ではなく本物を見なければならない。国立新美術館は入場料1500円であるが、国立西洋美術館は50周年記念で、常設展の拝観料は無料である。松方コレクションの中にルノアールが数点ある。その他の美術館にもルノアールを所有していることが多い。それほどルノアールは人気がある。
2010年4月
地域問題研究会主査 NAM記
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